49 戌<いぬ>の日には麦<むぎ>をまくな
イチョウの葉が色付くと、麦まきの季節です。むかしから、このあたりでは「戌の日には麦をまくな」という言い伝えがあります。この日に麦をまくと、その年には麦を食えない人が出る、つまり死人が出るといって、どんなに忙しくても他の日にまいたそうです。
むかしむかし、弘法大師<こうぼうだいし>が仏教を学びに中国へ行きました。中国には〝麦〟という作物がありました。しかし、その頃の日本には麦はなく、多くの人たちは稗<ひえ>や粟<あわ>などを食べていました。
この麦さえあれば、日本の人たちはもっとおいしい物が食べられる。そう思った大師は、内緒<ないしょ>で麦の種を持ち帰ろうとしました。
ところが、その様子を見ていた犬が、かみつかんばかりに吠<ほ>えたてました。ここで見つかっては日本に持って帰れないと思った大師は、やむなく犬を殺してしまいました。
大師は犬をていねいに埋葬<まいそう>し、犠牲<ぎせい>になった犬のために「決して戌の日には麦をまくまい」と、固く心にちかいました。
日本に帰ると、大師は麦を持ってくるのに犠牲になった犬の話を人々に話しました。それからというもの〝戌<いぬ>の日には麦をまくな〟〝戌の日に麦をまくと、その年は麦を食えない人が出る〟という教えが広まったということです。
※麦の真ん中にある黒いすじ状の皮は、〝ふんどし糠<ぬか>〟と呼ばれています。弘法大師<こうぼうだいし>が日本に持ち帰るときに、ふんどしに麦を隠し持って来たため出来たといわれています。