47 流れ灌頂<かんじょう>
むかし、あるところに〝二枚橋< にまいばし>〟という、橋が2重にかかった所がありました。それはそれは寂< さび>しい所で、大きな柳があり、川のまわりは深い草でおおわれていました。
ある時、この柳の下に赤ん坊を抱< だ>いた女の幽霊< ゆうれい>が出るという噂< うわさ>が広まりました。幽霊は決まって「庄< しょう>さん、この子はどうしましょ?」と声をかけ、通る人を恐がらせました。そんなことから、誰1人として二枚橋を通る者はいなくなってしまいました。
困り果てた村人は、お寺の和尚さんに相談しました。
「和尚さん、幽霊が出ねようにはならねぇもんだべか。これ以上、変な噂が広まったら、誰もこの村に寄りつかなくなっちまうべぇ」
「その幽霊っていうのは、お産<
さん>で亡<
な>くなった母親が、この世に残した子を心配しているんじゃろう。流れ灌頂を立てて、みんなで供養<
くよう>してやるとよかろう」
昔から「産< さん>で死んだら血の池地獄< じごく>、流れ灌頂立ててやれ」といって、お産で命を落とした時には、成仏< じょうぶつ>するように川に流れ灌頂を立てることが多かったのです。
そこで村人が集まり、流れ灌頂を立てることにしました。
二枚橋の縁に4本の竹を立て、お経を書いた2尺四方(約60センチ)の白布と、和尚さんが書いてくれたお経の紙を下げます。その内の1本には20尋< ひろ>(両手を左右に広げた長さがひと尋)の縄を結び、先を川に流して準備完了です。
「よしっ、これでよかんべ。それじゃあ、みんなで拝< おが>むべや」
そういって手桶< ておけ>に水をくむと、ひしゃくで白布に水をかけながら、念仏< ねんぶつ>をとなえはじめました。
「南無阿弥陀仏< なむあみだぶつ>、南無阿弥陀仏…」
ひとりずつ、同じように水をかけては念仏をとなえていきます。
こうして毎日毎日、村人の熱心な供養が続けられました。また、ここを通るときは、どんなに忙しくても水をかけて通るのが決まりでした。
そんな村人の気持ちが通じたのか、いつのまにか幽霊は出なくなったということです。