46 流れ着いた獅子頭<ししがら>
むかしむかし、中種足<なかたなだれ>にそれはそれは広いナラ林がありました。夏になると、この林めがけて「ゴロゴロ、ピカピカ」と、すさまじい雷が落ち、村人はほとほと困り果てていました。
「こう毎日のように雷が落っこっちゃあ、おっかなくて仕事もできねぇ。なんかいい考えはなかんべか」
「どうだんべ、雷よけに雷様<らいじんさま>をおまつりしては…」
すぐに、ナラ林の中に雷神社<らいじんじゃ>を建てることにしました。神様は別雷命<わけいかづちのみこと>です。村人の願いが届いたのか、それからは不思議と雷も落ちなくなり、仕事も一段とはかどるようになりました。
それから何年かたった、ある年のことです。
大雨が続いて荒川の堤<つつみ>が切れ、このあたりが大洪水<だいこうずい>となりました。その時、八幡<はちまん>(上種足<かみたなだれ>)の稲荷様<いなりさま>に流れ着いたものがありました。枳立耕地<からたちごうち>の者が近づいてみると、なんと、それは木の箱でした。おっかなびっくりふたを開けると、獅子頭が入っていました。
「こりゃあ、俺らにゃあ使えねえ」
そう言うなり、さっさと流してしまいました。
大水の流れに戻された木の箱は、今度は雷神社のナラ林にひっかかりました。これを見つけた中居耕地<なかいごうち>の者は、ふたを開けると、
「こりゃあ、ありがてえ獅子頭だ。雷神社におまつりすんべ」
と、大事そうに神社へ運びました。
それからというもの、毎晩のようにササラ(獅子舞<ししまい>)の稽古<けいこ>が始まりました。
「早くうまくなって、雷神社の祭りにゃあササラをする(舞<ま>う)べや」
「そうだそうだ。悪魔<あくま>ばれぇ(祓<はら>い)のありがてぇ獅子だかんな」
こうして「中居のササラ」が舞われるようになりました。一方、枳立耕地ではそれ以来、どんな踊りも、やらなくなったということです。