44 明神様<みょうじんさま>の〝お使い〟
外田ヶ谷<そとたがや>の西に、久伊豆神社<ひさいずじんじゃ>(地元では「くいず神社」とよばれています)があります。この神社はかつて、〝明神様<みょうじんさま>〟とよばれ、「いざという時は神様の〝お使い〟が現れ、村を守ってくれる」という、言い伝えがあります。
明治43年(1910)の夏のことです。大雨のため、このあたりが大洪水<だいこうずい>となりました。外田ヶ谷は周りが堤<つつみ>で囲<かこ>まれているため、入り込んだ水はたちまち村にあふれました。
「このままじゃあ、田んぼはおろか、家まで流されちまうぞ」
「堤を切りに行こうにも、こう流れが強くちゃ、命のほうが危なかんべ」
そうこうしているうちに、水はどんどん増え、押し入れの中まで水がやってきました。
どこからともなく、一匹の大蛇<だいじゃ>が現れました。大水にもまれながらも、頭を出して南の方へと泳いでいきます。
「おっ、ありゃあなんだ。でっけえ蛇<へび>みてえだが」
「もしかして、明神様の〝お使い〟じゃあなかんべか」
堤に何度かぶつかると、遠くへ消え去ってしまいました。
すると堤に切れ目ができて、そこから水が流れ出し、やがて水がどんどん引いていきました。大蛇の働きで村は大きな被害を受けずにすみました。
村人は〝明神様のお使い〟の大蛇に深く感謝したということです。
※この昔話は外田ヶ谷<そとたがや>に伝わるものですが、隣村の道地<どうち>には、この話の続きがあります。
しばらくして、道地の愛宕様<あたごさま>(現在は稲荷神社<いなりじんじゃ>に合併)の沼に、どうした訳<わけ>かこの大蛇が棲<す>みついてしまいました。たたりを恐れた村人は、毎日酒や米をお供<そな>えし、やっとのことで沼から出ていってもらったということです。