42 飯<めし>が仕事する
むかしの人は、「飯が仕事する」とよく言ったものです。たくさんご飯を食べ、他人の何倍もの仕事をこなしてこそ一人前、そんな意味が込められているのでしょう。
ある所に、何かにつけて、これを言う主人がいました。
稲のとり入れも終わり、麦まきの準備をしようとしていた頃です。主人は使用人に畑をうなう(耕<たがや>す)よう言い付けました。昔の畑うないというのは、〝エングワ〟と呼ばれる長い鍬<くわ>に片足をかけ、土に突きさして掘<ほ>り起こす、たいへん辛<つら>い作業でした。
人使いの荒い主人をあまりよく思っていない使用人は、主人がいつも口癖<くちぐせ>のように言っている「飯が仕事する」という言葉を思い出しました。
「ようし、今日は本当に飯が仕事するか試してみることにすんべ」
そう言うなり、一番大きな重箱<じゅうばこ>にご飯をいっぱいつめると、畑うないに出かけました。
畑に着くと、エングワに重箱をくくり付け、
「よし、これでよかんべ。どのくれぇ仕事すっか、見せてもらうことにすんべぇ」
といいつつ、畑に寝転<ねころ>んで、エングワをながめてはウトウトと居眠<いねむ>りをはじめました。
しかし、まったく仕事は、はかどりません。やがて日も暮<く>れかかったので、重箱をつけたエングワをかついで、家に戻ることにしました。
主人は、使用人の帰りを待ちかねたように尋<たず>ねました。
「今日はあんなに大きな弁当を持って行ったんだから、さぞかし仕事もはかどったことだろうな?」
「なあに、だんな。いつも飯が仕事するって言うもんだから、エングワに重箱を付けて様子をみてたんですが、ちっとも仕事なんかしませんでしたよ」
と、得意そうに言いました。
主人はしてやられたと、大変くやしがりました。