40 入定塚<にゅうじょうづか>
上崎<かみさき>の川棚<かわだな>耕地<ごうち>に、こんもりと古墳<こふん>を思わせるような塚<つか>があります。〝入定塚〟です。木々に囲まれた頂上には大日様<だいにちさま>がひっそりと立っています。
むかしむかしのことです。一軒の紺屋<こうや>(こんや/藍染屋<あいぞめや>)がありました。商売も繁盛<はんじょう>し、りっぱな店になりました。これほどまでになったのも、お爺<じい>さんとお婆<ばあ>さんのお陰<かげ>と、家族みんなが、深く感謝<かんしゃ>していました。
ある日のこと、お婆さんは家族を集めて言いました。
「私も今までまじめに働いてきました。でも、お爺さんに先立たれてからというもの、信心<しんじん>する仏様のもとで、共に暮らしたいと毎日思ってばかりいます。ついては、生き入定<にゅうじょう>(生きたまま仏様になること)したいのだが…」
家族みんなが驚きました。しかし、お婆さんの気持ちは強く、家族はお婆さんの願いを聞くことにしました。
入定の日がやってきました。頂上には穴が掘<ほ>られ、穴の中に大きな樽<たる>をおきました。中には、食物や布団を入れました。
家族に最後の別れを言うと、お婆さんは樽の中へと入りました。息抜きの竹筒<たけづつ>が通され、土がかけられます。竹筒の先からは、満足そうにお経を唱<とな>える声と「チン、チン」と鳴る鉦<かね>の音だけが、かすかに聞こえてきます。
それから何日経<た>ったことでしょう。お婆さんの声や鉦の音も、すっかり聞こえなくなりました。家族は「きっと成仏<じょうぶつ>したに違いない」と、大日様をまつって供養<くよう>したということです。