31 上高柳<かみたかやなぎ>・地蔵院<じぞういん>の本尊様<ほんぞんさま>
上杉謙信<うえすぎけんしん>が騎西城を攻撃<こうげき>したとき、城に火がかかり、もはや落城<らくじょう>寸前となりました。その時、奥方<おくがた>(殿様の妻)が大切にしていた地蔵様がひとりでに城から逃げて、新川<にっかわ>べりにあった大きなサイカチの木のウロ(木の中にできた穴)に隠<かく>れました。
それからというもの、不思議なことが起こりました。
「おめぇ、聞いたか。夜になるとサイカチの木が光るって話を…」
「なんでも、辺りがまぶしいくらいだっていうじゃないか」
たちまち村中の評判となりましたが、誰一人として近づこうとする者はいませんでした。
ある夜のことです。あんまり不思議に思った近くの者が、光の正体を確かめようとやってきました。恐る恐るサイカチの木をのぞくと、なんと、ウロの中で地蔵様がまばゆいばかりに輝<かがや>いているではありませんか。
すぐ、それを取り出すとお堂に持ち帰り、大切にまつりました。
それから何年経<た>ったことでしょう…。騎西の城には新たな殿様がやってきました。殿様には亀姫<かめひめ>という姫がいました。姫様は、日出安<ひでやす>村保寧寺<ほねいじ>の和尚から、この話を聞きました。
姫様は「和尚さま、そのような不思議な地蔵様であれば、私が土地を差し上げますので、寺をつくってはくれませんか?」
和尚は「これは誠にもってありがたい。ご本尊<ほんぞん>としておまつりし、寺を建てましょう」と言いました。
寺は上高柳村に建てられたので〝高柳山 地蔵院〟と名付けられました。
それから後、この地蔵様がいなくなっても、いつのまにか戻ってくることが続きました。さすがは地蔵様の不思議な力だと感心し、〝法輪山 地蔵院〟と名を改めたということです。