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30 上高柳<かみたかやなぎ>・地蔵院<じぞういん>のサイカチ

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 むかし地蔵院の境内<けいだい>に大きなサイカチの木がありました。この木は、騎西城落城の際、城から逃げてきた地蔵様<じぞうさま>がウロ(木の中にできた穴)に隠れていたという木でした。

 

 夏ともなると、枝いっぱいに黄緑色の小さな花を咲かせます。村人はこの花を採っては他の薬と混ぜ合わせ、〝御香湯<ごこうとう>〟と名前を付けて、売っていました。

 花がたくさん咲いた年や少ない年も、不思議と全部売り切れました。もし、この木がなかったら、寺はとっくにつぶれてしまっただろうと、村人はいつも感謝をしていました。

 

 ある年のことです。村に役人がやって来ました。

 「今回、近くで工事をすることになった。ついては、サイカチの木を材料として使うので、すぐ、差し出すように」

 突然の命令に、村人はびっくりしました。

 「お願いします。この木は寺の宝でございます。なにとぞお許<ゆる>しください」
 「サイカチの木がなくなっては、寺が維持<いじ>できません。ご勘弁<かんべん>ください」

 真剣に訴<うった>える村人の姿に、さすがの役人も仕方なく帰りました。

 そして翌年になると、また、役人がやって来ました。村人は前にも増して、必死に訴えました。大勢の村人の真剣な姿に、役人もほとほと困ってしまいました。

 役人は、「もはや私たち役人では判断がつかない。江戸にいる殿様に聞いてみるので、待っていなさい」と村人に伝えました。

 

 それから数日後、江戸の殿様から命令が届きました。そこには「サイカチの木は、切ってはならない」と書かれていました。

 

※地蔵院のサイカチはいつのまにか枯<か>れてしまいましたが、薬を作るのに使った版木<はんぎ>は今も残っています。最近、サイカチの若木が境内に植えられ、昔を思い起こさせてくれます。