27 山王様<さんのうさま>と天王様<てんのうさま>
戸崎<とさき>の名倉<なぐら>耕地<ごうち>に〝山王様〟という神様がまつられています(日吉社<ひよししゃ>)。お産にご利益<りやく>があることから〝女性の神様〟としても知られています。
むかしむかしのことです。隣村で天王様のお祭りがありました。
「ワッショイ。ワッショイ」
威勢<いせい>のいい掛け声と共に、神輿<みこし>を担<かつ>いだ若者たちがやって来ると、いつの間にか、わがもの顔で村中を練<ね>り歩き始めました。村人はあっけにとられ、ただ茫然<ぼうぜん>と見ておりました。
それからしばらくたつと…。原因不明の病気が村中に流行<はや>りました。村人はあれこれ噂<うわさ>しましたが、原因はさっぱりわかりませんでした。
そんなある日のことです。一人の村人が山王様にお参りすると、どこからともなく不思議な声が聞こえてきました。
「女の神が支配する土地に、男の神が勝手に入ってくるとは何事だ!それを防<ふせ>がなかった村人も許<ゆる>さん!」
原因不明の病気は山王様のたたりだったのです。村人は怒りを和<やわ>らげようと、あれこれ行いましたが、なかなか山王様の怒りは治<おさ>まりませんでした。そうこうするうち、また、次の年のお祭りが近づいてきました。
「また、隣村の天王様の神輿がやって来たらどうすんべ。向こうは大勢だしなあ」
「今年やっつけねえと、山王様がもっと怒るべ。みんなでやっつけるしかなかんべ」
そして、祭りの日になりました。村人は神輿が来るのを境内<けいだい>の池のそばで、じっと待っていました。
「ワッショイ、ワッショイ」
掛け声がだんだんと近づき、大きくなった瞬間、みんなで神輿めがけて一斉に飛びかかりました。突然の出来事に驚いた隣村の若者たちは慌<あわ>てふためき、神輿もろとも池に放り込<こ>まれてしまいました。
「バンザーイ、バンザーイ」
一目散<いちもくさん>に逃げ帰る若者を前に、村人は大喜びしました。
それ以来、山王様の怒りは治まり、元の静かな村になったということです。