26 山姥<やまんば>とお爺<じい>さん
あるところに、お爺さんが一人で住んでいました。ところが、どこからともなくお婆<ばあ>さんがやって来て、一緒に暮らすようになりました。
お婆さんは食べ物もろくに食べずに、それはそれはよく働きました。
「婆さんときたら、よくあれで動けるもんだ。もしかして、何かの化け物じゃあ、なかんべな」
かねがね不思議に思っていたお爺さんは、本当の姿を見届けてやろうと、ひと芝居<しばい>うつことにしました。
「婆さんや、わしゃあ今日は遠くまで仕事に行くから、帰りは夜になるかもしんねえよ」
そう言って出かけるなり、こっそり家の中に隠<かく>れました。
「やれやれ、爺め、やっといなくなったか。早いとこ腹ごしらえでもすっか」
一人になったお婆さんは、大きな釜<かま>でごはんを炊<た>き始めました。いつしか口は耳元まで切れ裂<さ>け、中からは鋸<のこぎり>のようなギラギラとした歯が見え、やせた体は何倍にも大きくなっていました。
なんと、お婆さんは山姥だったのです。鋸<のこぎり>のような手で飯を握<にぎ>っては食べ、そのみにくい姿といったら、例<たと>えようもありません。
隅<すみ>っこに隠<かく>れていたお爺さんは、あまりの変わりようにびっくりし、「うわあ~!」と声を出してしまいました。
「見たなあ、爺い。わしの正体を知られたからにゃあ、生かしてはおけん。山へ連れて行って、投げ捨<す>ててやるっ!」
タライの中にお爺さんを入れると、頭の上にのせて走り出しました。
山のまんなかあたりでしょうか。何やら、お爺さんの頭にからみつくものがありました。ウツギの木とフジツルです。お爺さんはこれ幸いにと、夢中でそれにしがみつきました。
そうとは知らない山姥は空っぽのタライをのせたまま山奥へと消え去り、お爺さんは危いところを助かりました。
それからというもの、どの家でもウツギの木とフジのつるを家の軒<のき>にさげて、魔<ま>よけにするようになったということです(4月8日)。