17 割れた獅子頭<ししがら>
「アリャリャーイ、アリャリャーイ」
春になると、元気な掛<か>け声と共に、あちこちで〝オシッ様〟が行われます。春のオシッ様は農作物がとれるように、夏は悪い病気が流行<はや>らないことを願って行われます。オシッ様には、つぎのような話が伝わっています。
ある村で、玉敷神社<たましきじんじゃ>から獅子頭を借りてきて、家々のおはらいをしていたときのことです。
突然、獅子頭が割れてしまいました。
「こりゃあ、えれぇことになった。オシッ様の面が割れちまったぞ」
「なんとか、直<なお>らねぇもんだべか」
村人達はあれこれ考えたあげく、ソクイ(ご飯つぶを練<ね>って作った糊)で付けることにしました。
しかし、どうやってもうまく付きません。困り悩んでいたところに、誰かが餅<もち>を持ってきました。すぐ試したところ、ピッタリ元どおりにくっつきました。みんなは安心し、獅子頭を神社にお返ししました。
ところがです。それからというもの、高熱をだす者やけが人が続き、村中たいへんな騒ぎとなってしまいました。これはどうしたものかと村中で相談し、修験者<しゅげんじゃ>にみてもらいました。修験者は、「高神様<たかがみさま>(霊験<れいけん>あらたかな神様)の祟<たた>りである」と言いました。
「高神様のバチっていうが、神様を粗末<そまつ>にした覚えはねえがなあ」
「もしかして、オシッ様の時に面を割っちまったのがいけなかったんだべか?」
「そう言えば、うめぇ具合に餅<もち>があったが、この時期に誰が作ったんだべ?」
不思議に思った村人がよくよく調べてみると、なんとお葬式<そうしき>で作ったアンビン餅だったことが解りました。
「こりゃあ、オシッ様に申しわけないことをしてしまった。すぐ、みんなで玉敷神社に行って謝<あやま>ってくんべ」
みんなで神社に行くと、獅子頭をきれいにし、神様の前で謝りました。
それからはオシッ様の怒りが治<おさ>まったのか、高熱をだす者もなく、けが人も出なくなったということです。