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15 稲荷山<いなりさん> 成就院<じょうじゅいん> 万福寺<まんぷくじ>

お話を聞く

 

 道地<どうち>に成就院という寺があります。まだ、この寺が〝万福寺〟と呼ばれていた頃のことです。

 

 ここに深憂<しんゆう>という、和尚<おしょう>さんがいました。深憂は寺の境内<けいだい>がせまく、お堂が荒れていることを悩<なや>んでいました。

 ある日のことです。深憂は村の鎮守<ちんじゅ>の稲荷様<いなりさま>にお参<まい>りし、次のような願いをしました。

 「わが万福寺はお寺も小さく、お堂もこわれています。私はお堂を直<なお>し、お寺を広い場所へ引越ししたいと思っています。どうか願いをきいてください。」

 

 そして数日後のことです。深憂の夢に稲荷様が現れ、「私も他へ引越ししたいと思っている」と語<かた>りました。

 深憂はすぐ、このことを檀家<だんか>の次左ェ門<じざえもん>に話しました。すると次左ェ門は、

 「さても不思議なことがあるものです。実は、私も和尚さんと同じ夢をみました。」

 2人は神様の気持ちがわかりましたが、たくさんのお金が必要なので、すぐにそれを行うことは難しいことでした。

 

 それからしばらく時が過ぎ、代官<だいかん>(村を監督<かんとく>する人)が見回りのために寺に泊まることになりました。2人は、寺の引越しのことを代官に話してみました。

 代官は「なるほど、このような荒れた寺では先祖の供養<くよう>もできないであろう。寺の土地として田畑をさしあげよう」

 代官がやさしい人で、寺の引越し用の土地をもらいました。しかし、貧乏な寺なのでお金がなく、なかなかこわれたお堂を直すことができませんでした。

 

 そんなある日のことです。次左ェ門が顔をニコニコさせて、寺にやってきました。

 「和尚さん、私の母がお寺を直すために自分のお金をすべてさしあげたいと言っています」

 それをきいた和尚さんは「おお、それは大変有難いことじゃ」と喜びました。

 

 こうして、長年の願いであった、お寺の引越しができました。これも稲荷様のおかげで願いが成就<じょうじゅ>したので、それからは「稲荷山 成就院 万福寺」と呼ぶようになったということです。