14 ものぐさ者<もん>どうし
むかしむかしのことです。あるところに、たいへんな〝ものぐさ者〟がいました。そのものぐさぶりといったら、とてもとても話にならないくらいでした。
ある日のことです。今日も今日とて、ものぐさ者が道を歩いていました。何やら腹がへっているようで、ヨタヨタと、今にも倒れそうな歩きかたです。
そこへ、菅笠<すげかさ>をかぶった男がやって来ました。菅笠をかぶった男は、なぜか大きな口をあんぐりと開けていました。不思議に思ったものぐさ者は、すげ笠をかぶった男に尋<たず>ねました。
「もしもし、どうして、そんなに大きな口を開けて歩いているんだね?」
「……」(菅笠をかぶった男は何も答えません)
腹の減った男は、さらに尋ねました。
「もし腹が減って口を開けているんなら俺の握<にぎ>り飯<めし>を一つやるから、俺の口の中へ握り飯を入れてくんねぇか。俺らぁ、さっきから腹が減ってやっと歩いているんだが、握り飯を出すのが億劫<おっくう>でしたくねぇんだ」
菅笠をかぶった男は、
「馬鹿なことを言うな。俺は、腹が減って口を開けているんじゃねぇ。この菅笠の紐<ひも>がゆるんで落ちそうだから、こうやって口を開けて紐を締<し>めているんだ。おめぇさんに握り飯を食わせてやるぐれぇなら、自分の菅笠の紐を締め直した方がましだ」
そう言うなり、菅笠をかぶった男はさっさと行ってしまいました。
昔から、ものぐさ者のことを「懐<ふところ>の握り飯を出して食うのも億劫<おっくう>だ」といいますが、道で2人のやりとりを見ていた村人は、あまりのものぐさぶりにすっかりあきれ果てたということです。