10 ネロハ

お話を聞く

 

 昔<むかし>の農家は朝早くから夜遅くまで、寝る間も惜<お>しんで働きました。特に嫁<よめ>の仕事は多く、人一倍大変なものでした。

 

 秋も深まったある晩のことです。農家に嫁に行った娘のことを心配した母親がそっと様子を見に行きました。

 心配した通り、娘は暗い板の間で、寒さをがまんしながら夜なべ仕事をしていました。かわいそうに思った母親は、せめて一晩<ひとばん>だけでもゆっくりと寝かせてあげたいと思い、あれこれ考えました。

 

 師走<しわす>(12月)の8日の夜のことです。いい考えを思いついた母親は、髪の毛を振りほどくと、額<ひたい>に2本の鰹節<かつおぶし>をくくりつけ、オビヒルマイ(帯<おび>を締<し>めない姿)で娘の家へ行きました。

 

 「ネロハー、ネロハー」

 母親は大声で叫ぶと、戸を「ドン、ドン」と叩<たた>きました。

 突然のことにびっくりした家の者が、おそるおそる外を見ると、鬼<おに>が戸を叩いているではありませんか。びっくりした家の者は、

「嫁ご、早く寝ろ。鬼が来たぞッ!」

 そう言って、さっさと灯<あか>りを消して寝てしまいました。

 

 それからというもの、師走8日と2月8日の夜は、「早く寝ないと鬼が婿<むこ>に来る(お嫁さんを盗みにくる)」といって、カワリゴト(変わったご飯)を作って早く寝るようになったということです。

 

※ネロハは北埼玉地方の方言<ほうげん>です。騎西では昭和のはじめまでこの行事が行われていました。 2月8日を〝事始<ことはじ>め〟、12月8日は〝事納<ことおさ>め〟とも呼んで、長いさおの先にミケェザル(目の荒<あら>いザル)をかぶせ、庭に立てました。一つ目の鬼が、目の多いザルを見て逃げ出すと言われているからです。