9 セセナ担<かつ>ぎ
昔<むかし>の農家には〝セセナ〟といって、台所から出る排水<はいすい>をためて置<お>く場所がありました。大きな瓶<かめ>を土の中に埋め、うわ水は外へ流して、中にはゴミが溜<た>まるようになっていました。これを時々汲<く>み出して、肥料<ひりょう>として畑にまいて使いました。
ある時のことです。〝アスビ〟といって、午後から野良仕事<のらしごと>が休みの時のことでした。
「今日はアスビだ。ヤスミヤスミでいいから、セセナ担ぎをやってくれ」
主人から仕事を言いつけられた男は、せっかくのアスビなのにと思いながらも、仕方なくセセナ担ぎをすることにしました。普段から人使いの荒い主人を面白<おもしろ>く思っていない男は、ひと泡<あわ>ふかせる方法はないものかと、あれこれ考えがらセセナ担ぎをしていました。
「そうだ、いい事を考えた!」
そう言うなり桶<おけ>を放り出すと、ゴロリと横になると、「グー、グー」と居眠<いねむ>りをはじめました。
しばらくして、そこへ主人がやってきました。
「わしは昼寝をして遊んでいろと言った覚えはないぞ。さっさと起きて仕事しろ!」
「旦那<だんな>、遊んでるわけじゃありません。ヤスミヤスミ仕事をしろって言うから、俺ぁこうして横になっているんです」
さすがの主人も男の屁理屈<へりくつ>になんとも言えず、家の中に入ってしまいました。男は「やったぁ~!」と、喜びました。