8 スズメの話を聞く<せいでん>盛典さん
上種足<かみたなだれ>のある家に、それはそれは賢<かしこ>い子がいました。後に優れた和尚<おしょう>となった盛典です。盛典は読み書きも上手で、人の考えていることを見抜く力をもっていました。
ある日のことです。突然、盛典が家の者に言いました。
「今、野通川<やどおりがわ>の橋のところで、米3俵<びょう>を付けた馬が倒<たお>れていますから、すぐ助けに行ってください」
家人はびっくりしました。この家では朝早くから鴻巣<こうのす>へ米を売りに行き、ちょうどそのあたりに着く時間だったからです。
すぐさま家の者が行ってみると、使いの者は、しょんぼりとしていました。用意して行った道具でこぼれた米をひろい集め、なんとか助かりました。
それからしばらくしたある日のことです。星川を上<のぼ>って船がやって来ました。船着き場の榎戸<えのきど>に船が寄せられ、荷物を下ろし始めた時です。船の係の者が、うっかりして米俵<こめだわら>を落としていまいました。
家にいた盛典はこのことを家の者に知らせると、手伝いに行かせました。家の者は疑いながらも船着き場に行ってみると、船の係の者が困っていました。
何度も起こった不思議な出来事に、家の者は盛典に聞きました。
「この前も今回のこともそうだけど、お前にはどうして見えないことがわかるんだい?」
「いや、大したことはないですよ。庭にいたスズメたちが、こぼれた米粒<こめつぶ>を食べに行こうと話していたので、そのことを教えただけです」
家の者は全員、びっくりすると同時に、盛典の並はずれた能力<のうりょく>に驚いたということです。