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3 おおぎょう様

お話を聞く

 

 むかしむかしのことです。戸室<とむろ>に広い松原<まつばら>がありました。その間を星川に沿<そ>って土手道<どてみち>があり、右に左に曲がりくねっていました。

 

 ある日のこと。白装束<しろしょうぞく>をまとった1人の行者<ぎょうじゃ>(旅に出て修行している人)が、弱々しい足どりでこの土手道を歩いて来ました。すでにあたりは、夕暮れとなっていました。

 「私は全国を旅している者です。馬小屋でも、玄関さきでもどこでも構<かま>いませんので、今夜1晩だけでも泊<と>めていただけませんか?」

 ただならぬ様子を感じた主人は、こころよく行者を泊めてあげました。

 ところが、行者はその晩から足腰も立たないほど重い病気になってしまいました。3日たっても4日たっても、いっこうに良くなる様子はありません。

 そうこうしているうちに村中の噂<うわさ>となり、行者を心配する村人が、毎日やって来るようになりました。

 

 1週間ばかりたった、ある日のことです。行者は集まった村人を前に頼<たの>みました。

 「私の命はもぅ、あとわずかしかありません。お世話になった皆さんへのお礼に、村の平和を祈りながら成仏<じょうぶつ>したいと思います。ついては、私をこのまま土手に埋<う>めてもらえないでしょうか?」

村人は、みな驚<おどろ>きました。

 「とんでもねぇ、そんなことをしたら罰<ばち>が当たっちまう」
 「生きたまま埋めるなんて、そんな恐<おそ>ろしいこたぁできねぇべ~」

 しかし、行者の決意は固<かた>く、村人はその願いを聞くことにしました。

 土手には大きな穴が掘<ほ>られ、行者の入った箱が埋<う>められました。箱には息抜<いきぬ>きのための竹筒<たけづつ>が通され、中からは行者が叩<たた>く鉦<かね>の音が聞こえてきます。

 それから1週間位たったでしょうか。鉦の音も心なしか小さくなり、いつしか鳴り止んでしまいました。

 

 それからというもの、村人は行者の埋まった塚を〝おおぎょう様〟と呼び、誰とはなしにお参りするようになりました。おおぎょう様は不思議と願いを叶<かな>えてくれ、特に耳の病気には神仏の不思議なききめがあったということです。

 

※かつて、おおぎょう様の周りにはお礼に供えられた酒や旗<はた>がたくさんありました。特に耳の悪い人は、この酒を悪い場所につけると治<なお>るといわれ、遠くの村からも貰<もら>いに来たということです。