13 ミョウガ

お話を聞く

 

 むかしむかしのことです。あるところに、とても物覚<ものおぼ>えの悪い男がいました。

 

 ある日のことです。男は主人からミョウガを買ってくるように頼まれました。ところが店に着くとすぐ名前を忘れてしまい、仕方なく店の人に尋<たず>ねました。

 「あのう、ショウガみてえな名前で、おつゆに使うもんが欲しいんだけど…」
 「ショウガみたいな名で、おつゆに使う?うちにゃあ、そういうのは置いてないねぇ」

 どうしても名前を思い出せない男は、もう一度、家に戻ることにしました。

 家に帰って主人に訳<わけ>を話し、名前を聞き直しましたが、まったく覚<おぼ>えられません。あきれた主人は、背中<せなか>に〝ミョウガ〟と書いた紙を貼<は>って行かせることにしました。

 

 途中、背中の張り紙を見た悪がきたちが男をからかい、〝バカ〟といたずら書きをしましたが、それに気付かない男は、そのまま店へ歩いて行きました。

 店に着くと、男は後向きになって言いました。

 「すまねぇが、背中に書いてあるもんを売ってください」
 「お客さん、ミョウガはおいてありますけど、バカってのはおいてませんが」
 「じゃあ、そのミョウガっていうのを売ってくれ」

 男はどうにか買い物をすると、家に戻りました。

 

 待ちかねていた主人は、ミョウガを買って帰ったのを見て「やれやれ」とひと安心しました。しかし、その途端<とたん>、男の背中をみてびっくりしました。

 「こりゃあ、知らなかった。ミョウガはバカって言うのが本当なのか…」

 それからというもの、主人はミョウガをバカと呼ぶようになり、いつしかその名前が世の中に広まったということです。

 

※ミョウガは昔から〝植えたときに子が出来る〟といって、7月なら7月、8月なら8月というように、植えつけた時期に花が咲くことから、ミョウガをバカと呼んだともいいます。